cocomat's BLOG わかってないひとの書評

このブログは、本や美術展等の感想とその他ムラムラっとした雑記も交えてお送りいたします。

【PK】霧が晴れたようなハッピーエンドとくさいセリフに思わず勇気が伝染する。【読書感想】

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結局週末は村上隆のスーパフラットを観ただけで、Bunkamuraにはいけませんでした。なんかどうにもすっきりしなくて、気づいたら行きつけの古着屋で爆買いしていました。店主には「軍資金三万でなにが爆買いや。もう二万見繕って出直してきいや!」などと言われながらもあれやこれや試着し散々文句言いながら最後には三着ほど購入。今月既にもうキツいです。

こんばんは。コマツです。

『PK(伊坂幸太郎)』読み終わりました。『半島を出よ』は来週また読み始めます。しばらくお待ちを。

PK (講談社文庫)

PK (講談社文庫)

 

この『PK』少し特殊な構成になっています。長編と言うには細切れで、短編集と言うには一つ一つの物語につながりがありすぎるのです。長編をキングスライム、短編集を個々のスライムの集まりとするならば、『PK』はスライムタワーといったところでしょうか。我ながらいい例えが出ました。

とても明るく、救いしかないシナリオ。しかしどこか怪しく、不穏。

以前読んだ『SOSの猿』では正義について描かれていました。引きこもりの青年が、ちょっとしたイタズラから、大きな犯罪まで目の前で行われる悪事に思い悩むところから生まれる物語です。

cocomatz.hatenablog.com

『PK』では三編それぞれで趣旨が微妙に異なっているものの、「勇気」「正義」「希望」などを髣髴とさせるような内容になっています。

しかし、その明るい雰囲気のテーマも独特の構成という手法によって霧がかかったように見えにくくなります。一編一編の世界観が微妙にずれていたり、違う人物から同じセリフが吐かれたりします。おや、とはじめは戸惑い、それが段々と違和感に変わっていく。だけど、それらを読み終わった頃にはどこか、安堵のような、胸がすっと晴れるような気になります。

この作品では誰も死にません。この作品には救われるキャラクターしか出てこない。というところにもニヤリとさせられます。ここまで怪しいのに、ここまで明るいのかと。さんざん読み手の思考を散らかしておきながら、そこに残していくものが心温まるものとなる。卑しいけれど、憎めない。それがこの物語の醍醐味かもしれません。

クサいセリフに惚れ込み、勇気が伝染する。

さらに、要所要所に出てくる格言めいたセリフ回しもなかなか青臭く、胸を突きます。

「臆病は伝染する。そして、勇気も伝染する。」

アドラーの著書のフレーズの引用ですが、このセリフも思わずドキドキしてしまうセリフの一つです。こんなかっこいいセリフをこんなにド直球に書いて。恥ずかしくないのか。と。いや、仮にこの文章を書くことに勇気がいるのだとしたら、このセリフを通じて伝染した勇気を胸の中で咀嚼する。それもまた一興なのかもしれません。

そして物語内でも勇気は伝染します。第一編『PK』のラストはとても胸が高鳴る、爽やかで清々しいラストです。物語を包むモヤが一気に晴れる瞬間で、その喜びをわかちあうのです 。読者と、登場人物とが。

あっさりと読める割に、残るものは多いです。そして構成や設定からとてもエンタメ性を感じる作品でもあります。これが時に古本屋で100円で買えてしまう。とんでもない世の中ですね。全く。


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おやすみなさい。