cocomat's BLOG わかってないひとの書評

このブログは、本や美術展等の感想とその他ムラムラっとした雑記も交えてお送りいたします。

【羊をめぐる冒険(上)】村上春樹作品入門書にして「耳フェチのためのバイブル」【読書感想】

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先日、二日酔いを引きずったまま仕事に行きまして、午前中はなかなかにしんどかったのですが、昼ごろには「しあわせタイム」と呼んでいる異常な空腹による食べたいと思ったもの、目についたものをすべて食べるということをしまして。おかげで気分も良くなりついテンションが上ってしまって給湯室で口笛吹きながら(確か『耳をすませば』の曲だったような)コーヒーを入れていたら、違う部署の先輩が不思議なものを観る表情と、何かを厳しく躾る時の表情を足して二で割った表情で「なんかいいことでもあったのか?」と。なにか良いことがあった時に人は口笛を吹くのかと思ったのですが、それ以上にその先輩の表情が頭から離れません。

こんばんは。コマツです。

村上春樹を読み返そう企画第三弾。という実はそんな企画があったのだという。自分でも驚くような企画なのですが、『羊をめぐる冒険(上)(村上春樹)』読み終わりました。 

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

 

鼠三部作三作品目にして入門書。

風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』に続く鼠三部作(『ダンス・ダンス・ダンス』も入れて四部作)の三作目に当たる作品です。

cocomatz.hatenablog.com

今作で初めて主人公〈僕〉は冒険に出ます。今までのシリーズの持つ叙情的な雰囲気とは打ってかわり、物語が大きく動く展開があります。そんな中、どんなシリアスそうなシーンでも相変わらず下手な黒いジョークを吐くのをやめない間の抜けた主人公には尊敬すら覚えます。しかし、関わる人間の数も増えたからかいくらか人間らしさも垣間見え、前の二作よりも読みやすい物語に仕上がっている気がします。村上春樹作品の入門書にもいいかもしれません。

耳フェチのためのバイブル。

ちょっとこの作品に対しては特殊な思い入れが強いのです。というのもこの作品には耳専門のモデルをしているガールフレンドが出てくるのですが、当時学生だったコマツはそのガールフレンドに完全にノックアウトされてしまったのです。

主人公が耳を観た時に感じるざわめきのようなものの描写が2つほどあるのですが、それが完全にコマツのフェチズムを確定してしまいました。

あるカーブはあらゆる想像を超えた大胆さで画面を一気に横切り、あるカーブは秘密めいた細心さで一群の小さな影を作り出し、あるカーブは古代の壁画のように無数の伝説を描きあげていた。

 

僕は息を呑み、呆然と彼女を眺めた。口はからからに乾いて、体のどこからも声はでてこなかった。白いしっくいの壁が一瞬波打ったように見えた。店内の話し声や食器の触れ合う音がぼんやりとした淡い雲のようなものに姿を変え、そしてまたもとに戻った。 波の音が聞こえ、懐かしい夕暮れの匂いが感じられた。しかし、それらは何もかもほんの何百秒分の一秒日の間に僕が感じたもののほんの一部にすぎなかった。

これと似たような経験を一度この本を読む前にしたことがありました。転勤族だったコマツがお互いに「幼なじみのような人」と認識している女の子がいるのですが、その子と以前渋谷を歩いている時にハチ公前の交差点でふと彼女の耳に目が行ったのです。その時、ここに書いてあるようなことに近いような現象が起きて、それの答え合わせをするかのように物語の中にこの描写が現れたのです。

いつでもこの本を読むと同じシーンでドキドキしてしまいます。コマツにとってこの『羊をめぐる冒険』は耳なしでは語れないものなのです。

下巻ではついに冒険が始まります。ガールフレンドのセクシーさと、〈僕〉の間の抜け具合に要注目です。


Four Tet - Angel Echoes

おやすみなさい。