【羊をめぐる冒険(下)】ハードボイルドでタフな主人公とそれにも勝る喪失【読書感想】
最近花粉症が猛威を振るっています。50年後には日本国民全員が花粉症になるという説もあるようです。まぁその前に花粉の出る杉がなくなるという話もありますが。人類はついに杉まで去勢するのでしょうか。夜に飲む強い薬を朝どうしても辛くて呑んだらその薬の副作用でひどい一日になりました。用法用量はしっかり守りましょう。
こんばんは。コマツです。
『羊をめぐる冒険(下)(村上春樹)』読み終わりました。『羊をめぐる冒険(上)』と合わせて読了しました。下巻の舞台は北海道に移ります。
喪失するということ。
登場人物は皆一様に何かを失い、何かを求めてるように思えます。指であったり、羊であったり、仕事であったり、何もかもだったり。ただ一人例外なのが「美しい耳の彼女」だったのかもしれません。
主人公の「僕」も物語を通していろいろなものを失っていきます。
1982年秋 僕たちの旅は終わる すべてを失った僕のラスト・アドベンチャー
美しい耳の彼女と共に、星形の斑紋を背中に持っているという1頭の羊と<鼠>の行方を追って、北海道奥地の牧場にたどりついた僕を、恐ろしい事実が待ち受けていた。1982年秋、僕たちの旅は終わる。すべてを失った僕の、ラスト・アドベンチャー。村上春樹の青春3部作完結編。野間文芸新人賞受賞作。
これが下巻のあらすじなのですが、ここに書いてあるほど恐ろしい事実は恐ろしくなく、すべてを失ったという字面ほど主人公の「僕」は絶望の淵に立っている感じはないです。もしかしたら、いちいち絶望していたら冒険なんてできようもないのかもしれません。タフでなければいけない。村上春樹の他の作品にもタフな主人公はよく出てきます。今作の主人公もそれに習ってタフでハードボイルドです。
主人公を襲う感情の波の強さたるや。
しかし、それでもこの作品には『風の歌を聴け』や『1973年のピンボール』といったそれまでの鼠シリーズに比べるとより感情に訴えかけてくるものがあるようなきがします。ここまで主人公がタフなのに。です。
物語の最後にそれはやってきます。すべての喪失がどっと迫ってきます。それまでは静かに水位を増していた喪失が最後に決壊し、一気に主人公を襲います。その悲しさ、切なさはとても静かでとても重いものです。
「僕はいろんなものを失いました」
「いや」と羊博士は首を横に振った。「君はまだ生き始めたばかりじゃないか」
「そうですね」と僕は言った。
読後感はかなり爽やかですっきりとしています。ここまでスッと通るような終わり方も村上春樹には珍しいかもしれません。以前の記事で入門書と言いましたが、あながち間違ってもいないなと改めて思いました。
Joon Moon - Chess (Live in Studio, Paris)
おやすみなさい。