cocomat's BLOG わかってないひとの書評

このブログは、本や美術展等の感想とその他ムラムラっとした雑記も交えてお送りいたします。

【笑う月】あなたは今朝の夢を覚えていますか?夢を語る楽しさと、それを考察する難しさ。そこからイメージする安部公房という人間像【読書感想】

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本来であればこのブログは22:00更新というのを自分の中できめておりまして、それがなぜこんな時間の更新になってしまったのかは言うまでもなく昨日の22:00にはお酒を外で飲んでいたからですね。そりゃあ水曜ですもの。コマツにだって飲みたい瞬間はありますよ。久しぶりに飲んだ仕事帰りのお酒は美味しかたです。たとえそれがサイゼリアの1.5リッター1080円のワインだったとしても。

こんばんは。コマツです。

『笑う月(安部公房)』を読みました。半島を出よの合間に読んだのですが、半島を出よはなぜあんなに読みにくくしかも長いのでしょう。きっと来週には読み終わることを信じています。

笑う月 (新潮文庫)

笑う月 (新潮文庫)

 

 安部公房は『砂の女』を以前読みました。とてもむずかしいと言うか、ライトに読むことができなかったのですが、砂の感触が皮膚から口から目から鼻から伝わる生々しい描写が頭から離れず、あの目がごろごろする感じが忘れられなかったのは事実です。

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夢という道の存在に対する構え方と、その楽しみ方。

笑う月が追いかけてくる。直径1メートル半ほどの、オレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。夢のなかで周期的に訪れるこの笑う月は、ぼくにとって恐怖の極限のイメージなのだ―。交錯するユーモアとイロニー、鋭い洞察。夢という“意識下でつづっている創作ノート”は、安部文学生成の秘密を明かしてくれる。表題作ほか著者が生け捕りにした夢のスナップショット全17編。

あらすじにあるように作者が見た夢をもとにした話です。ライブCDやノンストップDJミックスCDのような曲と曲の間がつながっていてシームレスな感じがそのまま本になったような短編集です。それぞれが違う夢を見て、違う考察をしているのですが、夢というくくりで共通していて、どことなく前後のお話に共通項があるような気がする、そんな読み物です。

夢の内容をつらつらと語るショート・ショートとそれに対する考察のようなエッセイの集積です。夢を夢として認識するのか、夢占いや心理学のように精神的影響や、その因果と照らしあわせて分析をするのかで夢の解釈は変わってきます。この作品は明らかに前者に当たるものです。

夢を文脈と情景で捉えてそのビジュアルのコントラストと、夢では描かれなかった前後の文脈を推測するという、いかにも夢を夢のままに捉えて語るにふさわしい作品に仕上がっていると思います。夢を頻繁に見る人や、夢にそこはかとない因果を感じているような人は共感できたり、魅力的に感じる文章が多くある気がします。

夢の持つ脈絡の無さとそれに対する混乱。

そしてこれは男ということでやむを得ないのですが、淫夢をめぐる描写も同じ男として非常に共感が持てます。男と淫夢は切っても切り離せないものだと思うのですが、その突拍子のなさや脈略のなさ、そしてそれが寝覚めのあとに残す複雑な印象はあまりに難しく、複雑で、公言することがはばかられるようなことがあるような気もします。しかしこの作品はそんな複雑さや、突拍子のなさも含めて、それらを全くの羞恥もなく公言していて、この思い切りの良さは世の男性には好感のもてるものだと思うし、現代においてはその複座すさ奇妙さは、インターネットによって性の垣根が取り払われつつある今でこそ女性にもエンターテイメントとして楽しめるフシもあるような気がします。

とりとめのない文章や考察の組み合わせですが、物語以外で作者の魅力を感じるのに最も適したコンテンツかもしれません。お陰さまでまた安部公房の本が読みたいと思いました。


Kid Koala - Moon River (Studio Version)

おやすみなさい。