cocomat's BLOG わかってないひとの書評

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【砂の女】青春との決別と孤独【読書感想】

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今の会社に入社してもうちょっとで一年が経ちます。職場の最寄り駅から会社、たまのランチと行きつけのラーメン屋くらいしか行動範囲がないのです。しかしこれまで駅から会社までの道中二回ほど道を聞かれました。全く地の利がないのでグーグルマップ片手に不甲斐ない説明しかできず、一人は気まずい表情で例を言い去っていき、もう一人はそれでも感激し大声で「神のご加護を!!」とお祈りをしてくれました。

こんばんは。コマツです。

以前更新した読みたい本のメモの中から一冊読み終わったので更新します。

混乱と感情と砂がめまぐるしく吹き荒れる。「現代文学最良の収穫」

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ふとした事から砂に埋もれた集落に軟禁された男。あらゆる方法で脱出しようとするがなかなかうまく行かず…。

と言った風なサスペンスなのですが、主人公である男の心情、同居人の女の描写、そして砂の描写がサスペンスとは思えないほどに緻密にリアルに描かれています。物語の主軸の上を流れる主人公の深層心理から五感に触れるものすべてを補完するように文章が紡がれています。

物語の目的、主人公の目的を忘れてしまいそうになるくらいに怒涛の波のように押し寄せる心理描写、あたかも新手の生き物のような砂、異世界に生きるものの象徴のような女。この三角関係のドラマもまたこの作品のもう一つのメインとなります

日常と非日常とは。

男は軟禁され今までいた日常と全く異なったある意味で異世界に軟禁されます。そこではありとあらゆる常識や知識は無益な慢心に変わりかねないのです。砂の描写一つとってもまるごと違ったりします。負の異文化コミュニケーションです。当たり前が全部マイナスに転じる。それはやがて自身を孤独にしてしまうのです。

急に人の家に住み着いたことになったとして、バスタオルの使い方や飯の時間羽毛布団と毛布の重ね方などちょっとしたことが微妙に違って、その違いがやたらと浮き立って見えてしまって、元のところが懐かしくなる。小さいころに親戚の家に何日かお世話になった時のような。馴染みの顔がないのはもちろんそういった些細な物事の変化にも人は孤独を覚えるものです。それのかなりヤバい版といったところでしょうか。

そしてもう一つ孤独を掻き立てる要因がこの物語には描かれています。

孤独とは、幻を求めて満たされない、乾きのことでなのある。

物語の中で男はありとあらゆる方法で集落からの脱出を試みます。上の文は何度も何度もくじけ、しかし諦めきれないでいる時の男の心理描写の一節です。

社会とは集団のこと、異世界であってもそれは変わりありません。一般的に集団に参加するのはどこの社会も大人ではないでしょうか。以前村上春樹の『羊をめぐる冒険』の解説か何かで「大人になるということは青春と決別することだ」というのを読みました。仮にそれがあっているとして、青春とは夢の様なもの、夢とは時に幻のようなもの。大人になっても青春を追い求める時その先にあるのは死か(鼠)、冒険か(僕/主人公)、自分の世界(バー)に引きこもって町の片隅で孤独に暮らすか(ジェイ)という構図がなされていました。

この異世界における男の立ち位置はまさにジェイだなと思いました。集落から出る希望を捨てずにギラギラと野心を育てているうちに、気づけば心身ともに孤独に

男は孤独のままなのか、大人として集落の一部に成り下がるのか。

 

文学の最高傑作になればなるほど読み難くなってくるようなきがするのはコマツだけでしょうか。ただ、ふとした折にまた開きたくなるような本でした。

おやすみなさい。 

 

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