cocomat's BLOG わかってないひとの書評

このブログは、本や美術展等の感想とその他ムラムラっとした雑記も交えてお送りいたします。

【半島を出よ(下)】できればもう二度と読みたくはない。村上龍のすこぶるヤバい作品【読書感想】

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ついに読み終わってしまいました。長かったです。本当に長かった。途中他の本を読んだり、通勤中の電車と昼休みにしかほとんど読んでないこともあって、上下巻を読み終わるのにほとんど一ヶ月かかってしまいました。ここまで挫折しなかったことも驚きだし、まずこの量を見てよく読む気になったなと自分でも感服しております。

こんばんは。コマツです。

『半島へ出よ(下)(村上龍)』読み終わりました。長かった。本当に長かった。これ分厚くて思いから持ち運ぶのもちょっと億劫になるんです。でもこれで明日から鞄の重さが昨日までの半分になるかと思うと心がすくわれる気持ちになります。

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

 

今月の頭に上巻の記事を書いているのでほとんど一ヶ月のスパンがあいてしまったのですが、実際ものを見てもらえば分かる通り、上を読んだ後の手をすぐに下に向けられるほどの体力も根性もコマツにはなく、ここまで読むのが遅れてしまいました。しかしまぁ、積み本にならなかただけ良かったです本当に。

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想像と現実の狭間にある快感。

当分、ヘタすれば一生読まないかもしれません。

ここまで愚痴のようなことをつらつらと述べましたが、実は吐きたくなるくらい面白い作品でした。と、いうよりも描かれる世界があまりにも緻密過ぎて前の記事でも書いたように現実との境が曖昧になってそこに物語特有の非現実さがぶっこまれてくるのですが、これが異常に麻薬として脳みそに染み渡っていくのです。現実じゃないとわかっていながらも、描かれる世界を想像することが本当に容易で、それが狂ったり歪んだりぶっ壊れる様は痛快そのものでした。

その緻密さは最後の14ページにも渡る参考文献と参考資料の細かい字の羅列を見ていただければ嫌でも納得させられると思います。とにかく気が狂ってるんじゃないかっていうくらい頭のおかしい作品です。そしてそういった取材や資料の山から浮き彫りになる村上龍独自の社会問題に対する警告といったものも、言葉とか事象ではなく感覚として共有させられるような気になります。

神の見えざる手というか糞ガキの逆襲。

そしてこの物語で切っても切り離せないのが『昭和歌謡大全集』にも登場した「イシハラ」率いる糞ガキ軍団です。この非常に現実的に政治的なノンフィクションのドキュメンタリー番組のような構成の中に唯一誰が見ても明らかなフィクション要員として彼らは登場します。この糞ガキどもの成長と暗躍。明らかにありえない状況が混入することで一種の安心感をこの作品で担当しています。

そしてそのフィクション感はメタ的に作品内にも影響を及ぼし、ここまで読者には痛烈な印象を残しながらも作品世界においてはほとんど表には出てきません。この世界において彼らは影も形も存在しないままに物語が終わるのです。

大長編を書くという責任。

そして一番読み終えてよかったと思えたのは、しっかりとエピローグが用意されていた点。この一点に尽きると思います。究極に至高を散らかしておきながらそれを散らかしたまま、ふわっと宙ぶらりんにされた状態でブツッと終わってしまう作品は多々ある気がします。それはそれで、あえて収束させないことで解釈や想像に幅が出て楽しいといえば楽しいのですが、この作品に限っていえばこのままエピローグ無しで終わっていたら、そのまま考える体力もなく思考停止してしまう可能性が大いにありました。しっかりとその後の日本、福岡の動きを提示し、イシハラ軍団の今を短くも簡潔にしかしちゃんと着地させてくれた所に村上龍の『半島を出よ』に対する責任と読者に対する優しさを感じ取ることができたように思います。

本当に疲れました!もう二度と読みません。少なくとも向こう5年は読みたくないです。


Panjabi MC - Mundian To Bach Ke (The Dictator Soundtrack)

おやすみなさい。

【空中ブランコ】油断してると良いパンチをおみまいされる。ライトな作風の中に込められた濃厚な人間描写。【読書感想】

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最近やけに眠くなってしまいます。家でも外でも職場でも気づけば一日中あくびしていたんじゃないかって思ってしまうくらい。今日も八時前にうたた寝かましてしまったにも関わらず眠気はあまり覚めないし、職場で昼寝していた時も気づけば昼休み過ぎていて、同期の子に起こされるという失態をかましてしまいました。「春眠暁知らず」とでも言ったところでしょうか。

こんばんは。コマツです。

空中ブランコ(奥田英朗)』を読みました。

空中ブランコ (文春文庫)

空中ブランコ (文春文庫)

 

イン・ザ・プール』に引き続き伊良部先生シリーズです。このタイトル、アニメにもなっていて、その作風が割と好きだったのでちょっと見ていたのを覚えています。確かクマの着ぐるみの医者だったような…。 

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前作も捨てがたいけど、ヤバいのは完全にこっち。

個人的には『イン・ザ・プール』よりはるかに面白いです。大枠はほとんど全く変わらないのですが、ディテイルにとても共感と魅力を感じられる作品になっている気がします。確かにライトさで言うと『イン・ザ・プール』には劣りますが、そこに少し人間臭さを入れ込んだような雰囲気に仕上がっている気がします。伊良部先生のひょうきんさとそれに振り回される患者のドタバタ劇と言うのは残しつつも、この『空中ブランコ』では、そこに患者の生い立ちが少し詳しく書いてあって、それが病気につながっているのではないか、とか。いい加減溜まっていたものが爆発して思いのたけをぶちまけるシーンの勢いとか情熱になかなか胸がアツくなりました。

『女流作家』に込められた仕事に対するヴァイブス。

特に最後に収録されている『女流作家』のラストには目に熱いものすら浮かんでくる始末。別にお涙頂戴の感動モノなんかじゃ一切ないし、こんな作品だから「さ、スカッと泣いて気晴らしするか」みたいな心構えで読むわけでもないのに、キャラクターのセリフの勢い、仕事に対する情熱、理想と現実の間で覚える歯がゆさなど業界、業種が好きなら誰でも一度は思うけれど声を大にして言いにくく胸に溜まってしまうアレが放出する様を見ていると本当にこのキャラクターは現実に存在していて、今そいつがブチ切れているところを自分が目の前で見ているのではないかという気分にすらさせられます。それくらい文章から勢いや、音量、熱といったものが感じられる描写に仕上がっていて、軽い気持ちで構えて読める作品なのですが、油断していると最後にやけどしてしまいます。

ほんとうに素敵な作品でした、純度100%のライトさがいいのであれば『イン・ザ・プール』、そこにちょっとスパイスがほしいのであれば『空中ブランコ』をおすすめします。


Shangri-La / Denki Groove (Rising Sun Rock Festival 2014 in Ezo)

おやすみなさい。

【鈴虫炒飯】奥まったカフェーで出会った日本語が楽しくなる一冊【読書感想】

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ただいま0:30です。何でこんな眠いし夜も遅いのにニコ生垂れ流しでこんな記事書いているのか自分でも不思議です。なんか、書かなきゃ。書かなきゃ。みたいな。本、買わなきゃ、買わなきゃ。美術館、行かなきゃ。行かなきゃ。みたいな。ちょっとした強迫観念のようなものにかられています。コマツも伊良部先生に診てもらいたいです。ああいう本読んでいると自分ももしかしたら…。みたいな気分にさせられるのでそういうのがたまに傷ですね。たまにきずって玉に傷なの?それともたまーに傷なの?どっちなのでしょう。

こんばんは。コマツです。

週末に吉祥寺のちょっと奥まったとこにある奥まったビルの奥まった階の奥まったスペースにある奥まったカフェーに行ってきました。ランチがしたいということで「吉祥寺 ランチ」と検索して出てきた飯が美味しそうなカフェーだったのです。

そこは隠れ家?的な雰囲気と音楽が売りのカフェーだったようですが、とりあえず店主がスゴい穏やかそうな人で、元僧侶か聖人のように落ち着き払っていて、それでいて小さいお店を一人で回しいるような人なのですが、その独特の雰囲気にとても落ち着ける、いい方の奥まったカフェーでした。

そこで見つけたのがこの本

鈴虫炒飯

鈴虫炒飯

 

なんと本人のサイン入りでした。

日本語は楽しい。

頼んだメニューが来るまでダラダラと読んでいたのですが、これが本当に面白い。作者の際どいラインのシュールさがちらつくユーモアと、狙ってるのか狙ってないのか際どいラインで繰り広げられる新生四字熟語とその解説と例文。そこに書道家の書も相まって、かしこまっているのか笑わせにかかっているのか、糞真面目なのか、ちょっと不思議な一冊。

文章って一番簡単な自己表現方法だとコマツは思っていて、だから人一倍自己顕示欲の強いコマツはこうしてゴミみたいなブログを書いているのですが、この新生四字熟語。それよりももっと奥が深くシンプルで完結した自己表現方法なのではないかと思いました。知識と、知恵とユーモアがいい塩梅で集結しなければ成り立たないような繊細な表現。やっぱり日本語って楽しい言語だなと改めて思わせられる一冊でした。

これ読んで、人前で披露して「こいつまた、なに言ってんだ?」みたいな目で見られるのとか想像して、普段から「それ、なんか田舎の伝説みたいですね。」とか人に言わせると意味不明な喩えを連発しているコマツとしては思わずニヤついてしまいました。


Vampire Weekend - I Stand Corrected

おやすみなさい。

【読書】メモ代わりにほしい本まとめる。4/21【予習】

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ヤバいですね。久しぶりにとんでもないくらいに書くことが無いです。ただいま九時二十分。十時には投稿したいのですが、びっくりするほどに文字が進みません。久しぶりに頭のなかが空っぽです。とりあえず明日は金曜日でもうすぐ愛しの週末がやって来るのでそれだけを楽しみに頑張ろうと思います。とりあえず、週末には読むものも切れそうなので、読みたい本をつらつらとまとめてみようと思います。

こんばんは。コマツです。

『半島を出よ』が未だに読み終わりません。コマツが読むのが遅いのか、ページ数が多いのかその両方なのか。原因は不明ですが、きっと来週の前半には読み終わって、いたい…。ですね。

お陰さまで他の本があまり読めていません。したがってここに書くこともなくなるというひどい循環が始まってしまうのです。とりあえず、来る『半島を出よ』読破の先を見て、読みたい本を予習しようと思います。

直木賞を茶化した小説。

大いなる助走 <新装版> (文春文庫)

大いなる助走 <新装版> (文春文庫)

 

 村上春樹芥川賞を取っておらず、筒井康隆直木賞を取っていないそうです。この本のアマゾンのレビューに書いてありました。賞がどうとか、っていうのは運やらシステムやらが絡むのでしょうが、まあある種の目標になることは間違いないのでしょう。コマツも学生時代がむしゃらにいろんなコンテストに応募していたのを思い出します。ただ、賞というのはあくまで過程であり、終着点ではないのは事実です。それでも勘違いして熱に打たれたかのように熱中する人は多いと思います。そんな賞を取り巻く状況を茶化すような作品だそうです。アマゾンのレビューには大御所から連載をやめさせろとの圧力もかけられたとか。

実験的な手法に惑わされる。

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 

 レビューを見ていると「かなり難しい小説」とあり、これを書きながらもう既にめげそうです。と、いうのもなんといっても『砂の女』のダメージがとにかく響いてまして、しっかりと腰を据えて読みにかからないとやけどする。みたいなイメージが刷り込まれています。しかし、安部公房の魅力というか、物語に惹きつけられる感じはとても心地がよく、それらがせめぎ合ってワクワクしてしまいます。この作品もあらすじを読んだだけでもう既に涎が出そうです。

こいつヤバいって聞くけど実際どうなの?

ミート・ザ・ビート (文春文庫)

ミート・ザ・ビート (文春文庫)

 

浪人生が車にホレ込む話のようです。他の作品だと、変態だの、ヤバいだのと言われているので、なるべくヘルシーなものから攻めたいなということでこの作品。車買ったの?じゃあ走るしか無いじゃん。といった疾走する青春小説。これも実は芥川賞候補に上がった作品だそうです。いきなりヘビーな作品だと胃もたれしてビビっちゃいそうなので、ヘルシーだったらいいなと思います。もしうまく行けば段々と作者のヤバさにチャレンジしていきたいですね。

ここに来て好きな作家みたいなものが見えてきた気がします。いろいろな作家の本にチャレンジしつつ、好きな作家の本も読み込めたらいいなと思うばかりです。


Destroyer - Chinatown - Pitchfork Music Festival 2011

おやすみなさい。

【笑う月】あなたは今朝の夢を覚えていますか?夢を語る楽しさと、それを考察する難しさ。そこからイメージする安部公房という人間像【読書感想】

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本来であればこのブログは22:00更新というのを自分の中できめておりまして、それがなぜこんな時間の更新になってしまったのかは言うまでもなく昨日の22:00にはお酒を外で飲んでいたからですね。そりゃあ水曜ですもの。コマツにだって飲みたい瞬間はありますよ。久しぶりに飲んだ仕事帰りのお酒は美味しかたです。たとえそれがサイゼリアの1.5リッター1080円のワインだったとしても。

こんばんは。コマツです。

『笑う月(安部公房)』を読みました。半島を出よの合間に読んだのですが、半島を出よはなぜあんなに読みにくくしかも長いのでしょう。きっと来週には読み終わることを信じています。

笑う月 (新潮文庫)

笑う月 (新潮文庫)

 

 安部公房は『砂の女』を以前読みました。とてもむずかしいと言うか、ライトに読むことができなかったのですが、砂の感触が皮膚から口から目から鼻から伝わる生々しい描写が頭から離れず、あの目がごろごろする感じが忘れられなかったのは事実です。

cocomatz.hatenablog.com

夢という道の存在に対する構え方と、その楽しみ方。

笑う月が追いかけてくる。直径1メートル半ほどの、オレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。夢のなかで周期的に訪れるこの笑う月は、ぼくにとって恐怖の極限のイメージなのだ―。交錯するユーモアとイロニー、鋭い洞察。夢という“意識下でつづっている創作ノート”は、安部文学生成の秘密を明かしてくれる。表題作ほか著者が生け捕りにした夢のスナップショット全17編。

あらすじにあるように作者が見た夢をもとにした話です。ライブCDやノンストップDJミックスCDのような曲と曲の間がつながっていてシームレスな感じがそのまま本になったような短編集です。それぞれが違う夢を見て、違う考察をしているのですが、夢というくくりで共通していて、どことなく前後のお話に共通項があるような気がする、そんな読み物です。

夢の内容をつらつらと語るショート・ショートとそれに対する考察のようなエッセイの集積です。夢を夢として認識するのか、夢占いや心理学のように精神的影響や、その因果と照らしあわせて分析をするのかで夢の解釈は変わってきます。この作品は明らかに前者に当たるものです。

夢を文脈と情景で捉えてそのビジュアルのコントラストと、夢では描かれなかった前後の文脈を推測するという、いかにも夢を夢のままに捉えて語るにふさわしい作品に仕上がっていると思います。夢を頻繁に見る人や、夢にそこはかとない因果を感じているような人は共感できたり、魅力的に感じる文章が多くある気がします。

夢の持つ脈絡の無さとそれに対する混乱。

そしてこれは男ということでやむを得ないのですが、淫夢をめぐる描写も同じ男として非常に共感が持てます。男と淫夢は切っても切り離せないものだと思うのですが、その突拍子のなさや脈略のなさ、そしてそれが寝覚めのあとに残す複雑な印象はあまりに難しく、複雑で、公言することがはばかられるようなことがあるような気もします。しかしこの作品はそんな複雑さや、突拍子のなさも含めて、それらを全くの羞恥もなく公言していて、この思い切りの良さは世の男性には好感のもてるものだと思うし、現代においてはその複座すさ奇妙さは、インターネットによって性の垣根が取り払われつつある今でこそ女性にもエンターテイメントとして楽しめるフシもあるような気がします。

とりとめのない文章や考察の組み合わせですが、物語以外で作者の魅力を感じるのに最も適したコンテンツかもしれません。お陰さまでまた安部公房の本が読みたいと思いました。


Kid Koala - Moon River (Studio Version)

おやすみなさい。